2023年、夏。沖縄。
あの日、島を襲った暴風雨は、私たちの生活から「光」を奪い去った。長く暗い、停電の夜。
「二度と、あの不便は繰り返さない……!」
台風が去った直後、私は決意と共に、ある「巨塔」を招き入れた。大容量ポータブル電源。 それは、停電という絶望に対する、我が家の最終防衛兵器だった。
しかし、平和とは恐ろしいものである。
幸か不幸か、あれ以来、断水こそあったものの、停電らしい停電は一度も起きなかった。
守護神であるはずのポータブル電源は、いつしか押し入れの最深部、いわゆる「開かずの領域」へと封印されていったのである。
第一章:沈黙の巨塔、目覚めず
先日、ふと思い立ち、数年ぶりにその封印を解いた。
埃を払い、どっしりと鎮座するその姿は相変わらず頼もしい。
「さあ、相棒。生存確認といこうじゃないか」
スイッチを入れる。液晶パネルが輝く。充電量は100%に近い。よし。
……ところが。1分後。
「プンッ……」
無情な音と共に、画面がブラックアウトした。
えっ?
もう一度スイッチを入れる。つく。そしてまた、1分で落ちる。
「おいおい、冗談だろ……?」
ほぼ未使用。外傷なし。バッテリー残量も十分。
なのに、こいつは1分以上起きていることができない。「もしや、不良品?」「いや、電池の寿命か?」「そもそも沖縄の湿気にやられたのか?」
私の脳内に、数万円という購入金額が走馬灯のように駆け巡る。納得がいかない。このままでは、ただの「重くて高い箱」を押し入れに飼っていただけになってしまう。
第二章:メーカーHPという名の迷宮へ
私は執念の鬼と化し、メーカーのホームページを読み漁った。
リチウムイオンの仕組みから、放電の特性まで。しかし、どれも私の相棒を救う答えには辿り着かない。
「もうダメか……」と諦めかけたその時、画面の隅にある小さな文字が目に飛び込んできた。
「専用スマートフォンアプリ、登場」
アプリ? ポータブル電源にアプリだと?
半信半疑でインストールし、スマホと電源を接続してみる。するとどうだろう。
液晶パネルでは分からなかった詳細なステータスが、スマホの画面にズラリと映し出されたのだ。
そして、そのメニューの中に、一際怪しく光る項目を見つけた。
「ファームウェアアップデート」
第三章:これが「IoT」というやつか!
ポータブル電源をWi-Fiに繋ぐ。
「アップデートを開始します」
スマホのプログレスバーがゆっくりと進む。電源内部で、目に見えない「脳の書き換え」が行われている。
これだ。これこそが、現代の魔法。
機械がインターネットを通じて自らを修復する。かつての家電では考えられなかった光景だ。「これが、あのIoT(モノのインターネット)ってやつなのか……?」
数分後。
「アップデートが完了しました。再起動します」
運命の瞬間。スイッチを入れる。
1分経過。……落ちない。
2分経過。……まだついている。完全復活である。
結末:押し入れに「安心」を
こうして、我が家の守護神は再び押し入れの奥へと戻っていった。
もちろん、今度はスマホという「絆」で結ばれた状態で。
台風が来ないのが一番。停電なんて起きないに越したことはない。
けれど、クローゼットの暗闇の中に、「いつでもネット経由で賢くなれる相棒」が控えている。
その事実が、沖縄の激しい夏を前に、ほんの少しの、しかし確かな安心感を私に与えてくれるのだ。
「次は、半年おきにアップデートしてやるからな」
私は巨塔にそう語りかけ、静かに扉を閉めた。
ポータブル電源をお持ちの皆様、動作が不安定になったら、ぜひ一度「アップデート」がないか確認してみてください。「押し入れの宝の持ち腐れ」が「最新鋭の守護神」に化けるかもしれませんよ!
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